ボイストレーニングで「声」を「獲得する」ということ

昭和女子大正門 スクール探しと受け方の達人

ボイストレーニングで「声」を「獲得する」とはどういうことでしょう?今回の場合、ただ単にカッコよさそうだと好き勝手に選んで、「獲得する」と書いているのではありません。

少なくとも

  • 獲得
  • 習得
  • 学習

この3ワードの関係で話を進めていきたいのです。

このように書くと

このブログの読者の方
おっ?!インプット仮説?クラッシェン!

または

別の読者の方
SLAとボイトレとどう関係があるの?生徒さんに留学生でもいるの?

こう感じた方は、日本語教師の方かJSL等の勉強、その関連の仕事をされている方だと推測します。

【SLA】
Second Language Acquisitionの頭文字をとった言い方。第二言語習得の意味。人が母語以外の言語を習得するメカニズムを研究する学問です。

【JSL】
また、先に出てきたJSLとは、第二言語としての日本語という意味で、Japan as a Second Language の頭文字をとった言い方。

今回も少々アカデミックな内容とボイトレをリンクさせます。ただ、SLAのことが分からなくても、ちょっと熱心な人にとっては

さらに別の読者の方
外国語と第二言語とどう違うの?

といった疑問がわきそうです。

簡単に言うと、

外国語教育:学習しようとする言語(目標言語のことでTarget Language 以下TL)が話されていない地域でその言語を学ぶこと。例えば日本人が日本で英語を学ぶ。

第二言語教育:TLが話されている国や地域でその言語を学ぶこと。例えば日本人がカナダで英語やフランス語を学ぶ。

この件については、こちらのリンクを参考にしてください。

第二言語と外国語の違い

 

今回の内容の結論を先にお伝えしましょう。


今、ご自身の課題となっている声の項目を洗い出し、担当トレーナーと一緒にあなたの伸びるための順序を考えてください。


ということなのです。これがボイトレの「声」を「獲得する」事とどう関係があるのか?読み進めていってください。

声の獲得とは?♪

今回のこのお話、生徒さん側の受け方に関わってくることです。つまり、トレーナー目線からではなく、生徒さん目線というわけです。

書こうと思った理由は、先日、日本語教師の先輩方と「子供の第二言語習得研究と第二言語教育 -習得開始年齢に焦点を当てて-」という公開講演会を昭和女子大学で受講したことがきっかけでした。

SLAには、様々な仮説やモデルがあります。どうも室長はこれらを学び出すと、語学だけではなく、ボイストレーニングや楽器の習得といったことまで関連付けて考えてしまうのが癖になってしまいましたねw あはは。

ボイトレの項目-レッスンで行なったことが実践できない

ここで始めに出てきた

  • 獲得
  • 習得
  • 学習

の違いについて触れておきましょう。

第二言語習得のモデルの中にインプット仮説(モニターモデル)という有名な理論があります。

まず、

獲得習得(ほぼ同じ意味として捉えます)

なので、

音域のある広がりのある声を獲得したい≒音域のある広がりのある声を習得したい

このようになります。

では、習得学習はどうでしょう?

 

習得学習とは繋がりません!(by クラッシェン/テレル)

実際にボイトレでも、何かの楽器の教室でも、スポーツでも、英会話スクールでも、こういった状況はあるのではないでしょうか?レッスンの終わり頃になって、良くなってきた。変わってきた。と感じていても、次のレッスンにはまた元に戻っているということが・・・。

3歩進んで2歩下がることは、教わる側にとってはとても良いことなのです。ただし、これでは習得したということにはなりません。

生徒さん目線に立つと、直ぐに変わるのが分かる!これは学習にしかすぎません。明日もう一度繰り返したときに、その身体の状態をキープできるのか?ダンスや歌の時に使えるか?実践の現場ではどうか?

これらは全て習得の問題なのです。

習得とは無意識に覚える過程です。この過程は暗示的です。幼い子供が母語を覚えるような感覚で自然と身につきます。反対に学習意識的明示的なプロセスです。無意識のプロセスである習得とは違います。学習で身につけた知識はモニターでしかありません。自分の歌や発話をチェックする機能でしかないということです。

歌いたい曲を聴くと、歌声を出す前に身体が動いてしまうのは、その人にとってリズムが習得だからです。

このインプット仮説(モニターモデル)は、1980年代(~85年)に確立され、これまでの言語教育の在り方に一石を投じました。

この習得学習はリンクされないこと、生徒さんの伸び方とどこか関係があるように思えてならないんです。

ボイトレの項目を習う順序-習得順序と発達順序

もしこの内容を同業のトレーナーの方がご覧になって頂いているのなら、質問です。

同じメソッドを教えたとしても、生徒さんによって伸び方が全く異なった。という経験はあると判断します。何故そうなるのでしょう?

ボイストレーナー
生徒さんの個人差が原因でしょう。できる人とできない人と。

はい。もちろんそれはそうなんですが、もう少し深堀してみましょう。そのメソッドでできない生徒さんは、本当にできないんでしょうか?

発達順序と習得順序

上の図は、発達の順序と習得の順序の関係を表したものです。

発達順序:あるひとつの項目や機能を習得する場合に、間違えを含めて通る伸び方のプロセスです。例えば、語学でいえば、現在完了形のマスター。ボイトレでいえば腹式呼吸のマスターです。図でいうと上に向かう矢印(①)です。

習得順序:語学でいえば様々な文法項目が習得される順序のことです。ボイトレでいえば、身体使い、呼吸法、リズム、発声などの項目が習得される順序です。図でいうと右に向かう矢印(②)です。

言語学の先生によっては、最終的には正用順序だったり出現順序だったり、いろんな考え方が出ています。

「教える順序」なんて関係ねぇ!

ここで問題にしたいのは、用語の名前はどうであれ、習得を早くしたいのなら

その順番通りに教えるべきなのか?教えた方が良いのか?

ということを考えないとならないのです。

ボストレーニングでいうと、本当にフォーム→腹式呼吸→発声 の順序が正しい教え方なのでしょうか?

さらに、発達順序も道筋段階を飛び越えるとダメなのか?という疑問が残ります。

発達段階は、今いる生徒さんの段階より一段以上のものを教えれば効果があるが、段階を飛び越えることはできない、という理論もあります。教授可能性仮説 by ピーネマン)

室長
本当かなぁ???

また、クラッシェンの理論の中に「自然な習得の順序」があります。だからといってこの仮説は、その順序通りに教えなさいということではなく、大人でも子供でも教える順序が違っても、どんな順序で教えても、習得の順序は変わらないから、教える順序なんて関係ない!わけです。

 

少なくとも日本語教師はこういった事柄を習ってきていますし、考えています。これはボイストレーニングでも当てはまると言い切れます。何百人も何千人も個人指導を経験された豊かな先生ならお判りでしょう。

このようなことは、当然教える側で考えることは大切!ただ、教わる生徒さんの側でも考えてほしいのです。それがご自身の習得(獲得)の速さにつながると考えています。

SLAは、分かりにくいですが、トレーナー側が教わる目線に立って考えられることを示唆してくれます。教わる生徒さんも巻き込んで、教え方教わり方の勉強を学習・習得するのもよいのではないでしょうか(笑)

タイトルとURLをコピーしました