久しぶりに「紛らわしいぞシリーズ」をお届けいたします。
皆さんは、発声と発音と調音の違いはお分かりでしょうか?
今回は、発声と発音の違い、発音と調音の違いということで書いていきましょう。
声を発するのか?音を発するのか?
これはまず、言語音かどうか?ということに関わってくるでしょう。
次のようにまとまると思います。
音 | 音声 | 言語音 |
非言語音 | ||
非音声 | 反射音 | |
物理音 |
ここから違いに入りましょう。何だかただの対照になってしまい無味乾燥で申し訳ないすが、少しの間、お付き合いください。
発声と発音の違い
発声は、発声器官を使って声を出すこと。そこには表情音と言われている咳払いや舌打ちも入ります。さらに、モノマネなどの遊戯音も入ります。
表情音と遊戯音は非言語音の分類です。また、泣き声は非音声の反射音の分類です。
それに対して発音とは、発声器官で加工された言語音を出すこと。また、その出し方のことです。
☑phonation/vocalization
発声、音声(言語音、非言語音)や非音声(反射音)を発する。
☑project one’s voice
自らの考えを打ち出す、発声する(project=離れたところに声を届かせる)
☑pronunciation
発音、特に言語音を出すこと。ある単語や言語、ある人が発声される方式。
発音と調音は違う?
では、発音と調音の違いは何でしょうか?
☑articulation
分節。明瞭な発音、明確な表現。「調音」や「滑舌」にいちばん近い単語がこれでしょうか。
音楽の演奏において、各音の切り方、あるいは次の音との続け方のこと。演奏上、フレーズ内部の分節を明確にする表現手段として重要。レガート・テヌート・スタッカートなど。
☑point of articulation/place of articulation
調音点、調音部位。口の中でどこが妨げられるかといった子音を作る部分、場所。
調音(articulation)の下位区分。
☑manner of articulation
調音法≒調音様式。妨げられている音をどう発音するかといった子音の種類。
調音(articulation)の下位区分。
☑articulation style
調音様式≒調音法。調音(articulation)の下位区分。
☑diction
言葉づかい、語法,言い回し。発声法や話し方という意味も。
語源は、ラテン語「言うこと」の意味。
☑phraseology
言い回し 、用語、表現法、言葉遣い、言語の使用法といった意味。
よく「調音とは個々の音をはっきり発音すること」だといわれているんですが、どうもそれが全てだとは言えないようです。
規範的なのが発音?
僕は、発声(特に声の響かせ方)と発音との間には、切っても切れない関係があると思っています。発声も発音も体の使い方が根っこにあるからです。
その上で、発音と調音は違うという立場をとっています。

何故なら、その言語特有な音の数がそれぞれの言語によって違うからです。母音の数が各言語によって違うということはあなたもお分かりだと思います。

イタリア語、スペイン語、日本語は5つの母音だといわれています。しかし、これはよく使われている母音の数を表しているに過ぎません。
日本語の中でも、地域によって母音の数が違うことはこちらの記事にも出ています。

また、同じ役割を持つ単音どうしは、音素と呼ばれる分類になります。音韻論ではミニマル・ペアのことを習います。
【ミニマル・ペア】
1箇所だけの音素の違いが意味の違いを意味の違いを起こしている。このような語の組み合わせ。
例)尼/ama/さんの腕にアザ/aza/ができた。
さらに、異音といって同じ音素でも、実際にはいろんな発音の仕方で発音される音があります。
例えば、
と言っても
と言っても、まあ、変だぞと感じつつも、高田馬場(東京都内にある地名)として捉えます。
ところが、花瓶を英語で
と言うところを
と言ってしまうと、音の違いが意味の違いを引き起こしてしまいます。
このように各言語によって異音は違います。
別の例を示しましょう。
例えば、子音の[t]の発音は、英語、スペイン語、イタリア語では口蓋に触れるまで舌を持ち上げるという点では同じですが、それぞれの言語でどこに触れるのか?舌の先をどの位の割合で使うのか?などです。また舌先が触れている時間についても少しずつ違います。
【引用】アレクサンダーテクニーク
歌手ならだれでも知っておきたい「からだ」のこと
同じ日本語で話すにしても、地域方言のことや個人差を考えると[t]の調音は違うと言わざるを得ません。
そう考えています。
今、たまたま例として出している音が[t]ですが、他の音も同じような考え方が出来ると思います。
歌の場合はどうなんでしょう?
歌の世界での調音は、話しことばで見てきたよりも、大きな違いがでます。話しことば以上に音域があるのが歌だからです。
日本語で歌うにしても、子音、母音は、音楽のジャンルによって、地域によって、人によって調音は微妙に変わる。
という歌詞で歌っていたとしても
- J-Popで歌う歌い方
- ロック調で歌う歌い方(清志郎風?)
- 演歌での歌い方
- 童謡を歌う場合
必ずそれぞれが違うはずです。もちろん、楽曲のメロディに依存する部分も大きいかなと思います。
ロック調の場合は、子音のアタック感を強めて歌う。演歌での歌い方の場合、鼻音のところで隠された「ん」を隠し味として出して歌う。
といった歌い方で違いが出します。
何よりも大切なのは、ボーカリストの個性や個声(こせい)によって加工された歌声が言葉になって聴き手に伝わるということです。
言霊(ことだま)といえば簡単に聞こえてしまうくらい、ダイナミックさとデリケートさを併せ持ったのがステップ4の段階、音を加工して出していく部分なのです。
発声、発音、調音はこういった事に関わってくるのです。
土台→呼吸器→発声器→調音、構音器
▼ステップ1. 土台となってくる必要なものごと
▼ステップ2. 呼吸器 身体作りから息の送り出しの段階
▼ステップ3. 発声器 息の送り出しから声が響くまでの段階
▼ステップ4. 調音、構音器 ステップ3.の段階で作られた音の加工
滑舌をよくするなど、ことばに変わる段階